日本の考古天文学金山巨石群と太陽暦 <岐阜県下呂市金山町>

古地磁気学による金山巨石群配列の解明 

兵庫県立大学大学院生命理学研究科地球テクトニクス研究室/森永速男
姫路工業大学理学部物質科学科(現 兵庫県立大学)/一色健司
金山巨石群調査資料室/小林由来・徳田紫穂


  英 語 

はじめに

 金山巨石群の岩石種は、約7000万年前の白亜紀の終わり頃に、火山から噴出した火砕流堆積物が固結した濃飛流紋岩である。このような火山起源の岩石(火山岩)は、冷却・生成する過程で、熱残留磁化と呼ばれる安定な残留磁化を獲得する。

 この残留磁化の方向は、生成当時の地球磁場方向と並行となる。つまり、火山岩は、過去の地球磁場(古地磁気)の方向を記録している。
 もし、金山巨石群が、風化・浸食に伴う残留地形だとすれば、生成後移動していないので、各巨石の残留磁化方向は揃う。

 一方、巨大地震などにより巨石が移動・回転し現在見られるような巨石群配列が生じた場合や、古代人が目的を持ってこれらの巨石を運搬して配置した場合には、各巨石の残留磁化方向は一定の方向を示さず、それぞれが異なる残留磁化方向を示すと予想される。
 このように、巨石の古地磁気調査により、少なくとも、巨石群配列が残留地形なのか、移動・回転を伴い生じたものなのかを判定できる。

 ここでは、各巨石群を構成する各岩石から岩片を定方位で採取し、その残留磁化方向から、各巨石群の巨石配列の起源を考察する



試料採取および測定

3ヵ所の巨石群、岩屋岩蔭遺跡巨石群(E、F、Gの巨石)、線刻石のある巨石群(A、B、B’、C、Dの巨石)、東の山巨石群(R、Sの巨石)を構成する巨石から1個または2個、計14個のハンドサンプルを採取し(2003年12月時点)、ハンドサンプルそれぞれから2個または3個、計38個の磁化測定用試料を取り出した。
 それらの残留磁化を、スピナー磁力計を用いて測定した。また、二次磁化成分の検出と分離のために、段階交流消磁実験および主成分分析を行い、各試料の特徴的残留磁化ベクトルの方向を決定した。

【解 説】
 古地磁気学的手法によって、生成された岩石が最初に獲得した残留磁化を特定する典型的な手法は、試料を特定の磁場の中に置いて磁場強度を増しながら、その残留磁化を段階的に消す(「消磁」する)ことです。
 この手法で、対象岩石の経歴に対応する固有の磁化(「磁化ベクトル」)を求めることが出来ます。
 消磁の各段階で磁化ベクトルは変化しますが、この手法によって最終的に最も安定な磁化成分が分離されます。このように安定な磁化ベクトルは、原点に向かって直線的に減衰していきます。
 この安定な磁化成分を、「特徴的残留磁化」といいます。

 消磁する方法はいくつかありますが、それぞれの目的には、いくぶん違いがあります。
 ここで使用した「交流磁場消磁」は、各段階において、試料をゼロ磁場の容器の中で3次元的に回転させ、正弦波で変化する交流磁場にさらし、さらにその振幅を滑らかに減らしていきます。
 こうすると、岩石に含まれる磁性粒子のうち、その「保磁力残留磁化を打ち消すために必要な逆向きの磁力」が交流磁場のピーク値より低いものは、方向がバラバラになります(つまり特定の磁化ベクトルを持たなくなります)。
 この手法は、火山岩が冷却・生成する過程で獲得した「熱残留磁化」を、他の要素から分離するのに有効です。
他の要素とは、周辺の樹木などへの落雷によって獲得した磁化(「等温残留磁化」)や、環境の中の弱い磁場から長期間にわたって獲得した磁化(「粘性残留磁化」)などです。


測定結果および考察

すべての測定試料について段階交流磁場消磁を行ったが、その処理に対する各巨石の残留磁化の変化挙動は同じであった。
 また、すべての試料は段階消磁で安定な挙動を示し、磁化強度は小さいけれども安定な磁化を持っていることがわかった。
 さらに、ほとんどすべての試料が、12〜20mT[ミリテスラ]の低磁場消磁で除去される二次磁化成分(低保磁力成分)を持っていた。


巨石AとSの試料は、主成分分析により方向決定できる安定した低保磁力成分を持っているが【図1】、その他の巨石の試料では低保磁力成分の方向はまとまりが悪く、決定できなかった。
 おそらくこれらの低保磁力成分は、巨石の原石である濃飛流紋岩が生成後の長い期間に獲得した、粘性残留磁化(雑音成分)と考えられる。
 また、ほとんどすべての試料で、高い磁場消磁でも安定した磁化成分(高保磁力成分)が認められた【図2

 1つの巨石から得られた複数個の測定試料の、特徴的残留磁化ベクトルの方向はかなり揃っていた。これらのことから、巨石群の岩石は、生成時の磁化(初生磁化)を保持していると考えられる。
 一方、巨石ごとに求めた平均残留磁化ベクトルの方向は互いに異なっていた【図3a】【図3b】【図3c
 これを、巨石配置の平面図に表示してみた【図3sa】。
 以上の古地磁気結果は、金山巨石群の巨石それぞれが、移動または回転を伴って現位置に定置したことを示している。
 この移動または回転が、どういう過程によるものなのか、古地磁気学的に示すことはできないが、少なくとも風化・浸食の過程で取り残された残存地形ではないと判断できる。


また、巨石配置から、巨石BとB’、およびRとSは、元々一体であった巨石が分裂したものと予想していた。
 これに対する古地磁気結果は、巨石BとB’では、残留磁化ベクトル方向と段階消磁における残留磁化強度減衰パターンが似ていることから【図4】、元々一体であった可能性が高い。
 一方、巨石RとSでは、それらがかなり異なることから【図5】、一体ではなかったことが確認できた。


【図1】段階消磁に伴う残留磁化ベクトルの変化(巨石A,S)

【図2】段階消磁に伴う残留磁化ベクトル変化の例


【図3a】線刻石のある巨石群の高保磁力・残留磁化ベクトルのステレオ投影

(注)グラフ上の各点は、それぞれの巨石の平均ベクトルの立体的方向を表現したもので、点の位置が円周に近いものほど方向が水平に近く(伏角がゼロに近く)原点に近いものほど垂直に近い(伏角が90度に近い)。●,○は、それぞれ伏角が正《下向き》または負《上向き》であることを示し、互いの方向が水平面に対して逆である。また、平均方向を囲む楕円(95%の信頼限界;α95)は、3個以上の測定結果が得られた巨石について方向平均の2σ(σ;標準偏差)の範囲を示し、それ以外の方向は2個以下の測定結果しか得られなかったものである。よって、α95は定義されていない。


【図3b】岩屋岩蔭遺跡巨石群の高保磁力・残留磁化ベクトルのステレオ投影


【図3c】東の山巨石群の高保磁力・残留磁化ベクトルのステレオ投影


【図3sa】巨石配置上に表示した平均残留磁化ベクトルの方向

(注)石面の矢印は、平均残留磁化ベクトルの水平成分の方向を示す。また、矢印の色の青と赤は、それぞれ伏角が正《下向き》または負《上向き》であることを示し、互いの方向が水平面に対して逆である。


【図4】段階交流消磁に対する磁化強度の変化(巨石B,B')


【図5】段階交流消磁に対する磁化強度の変化(巨石R,S)



copyright(C)2001金山巨石群調査資料室 AII Rights Reserved.  更新日2004.12